台湾その日暮らし


by ken1horie
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「流」東山彰良著 ある外省人家庭を中心とした1970年代以降の台湾

 直木賞の話題作、東山彰良「流」を読みました。1970年代以降の台北を主に舞台とした、外省人家庭に育った主人公の青年「葉秋生」が織りなす、青春ミステリーとでも呼べばよいでしょうか。蒋介石の死と共に始まる物語の内容は、いきなり波乱のスタートを迎えます。台北一の進学校(多分建国高中の事だと思われる)に通う高校二年生の主人公は、その波乱の中成長していくわけですが、内容としては幼馴染との恋愛話があり、台湾の男性なら誰でも経験する徴兵の話も加わり、1970年代、80年代の台湾の雰囲気が伝わってくる様です。

 また、私自身台北に住んでいる身でもあり、本書に登場する地名の土地勘がある為に、その場面場面の情景を想像する事が容易でした。確かに目の前には台北の街並みが浮かび上がる描写となっています。そして、主人公は外省人家庭出身と言う事も有り、その目を通しての台湾や台北の姿が生き生きと映し出されます。日本語で書かれた内容ではありますが、例えば強い台湾訛りの中国語の表現に工夫も凝らしており、その台湾社会の複雑さの一面も垣間見えます。私は台湾大学では歴史を学び、休学してしまいましたが修士では台湾史の研究をしておりました。確かに台湾史研究に少しだけ足を踏み入れてはいましたが、戦後台湾史は私の専門外なので、詳しくはありません。それでも尚、私の知っている範囲で言うとすれば、戦後の台湾には戦後の台湾の複雑さが存在しており、その多元的な社会状況も垣間見える内容になっております。そして、また大陸から台湾に渡ってきた老兵達が、場面場面で言う一言が、それこそ当時の国共内戦に敗れた国民政府のその当時の状況や、彼らが思っていた事を表しているのではないでしょうか。
 そういう内容から、1970年代から、2000年くらいまでの間の台湾のある一面も垣間見える内容となっています。そして、例え台湾と中国が断絶していても、その網の目を掻い潜るかの様に、人々は手を尽くして、まるで国民党と共産党を欺くかの様に、中国との連絡を取り合っている姿も生き生きと描かれています。

 個人的な感想では、面白く読めましたが、恋愛に関する話の展開では、よくある展開が使われていたり、また1970年代末から台湾で大きなうねりを挙げる党外運動の事が描かれていなかったりと(しかし、話の内容を考えるに、これに関するエピソードは加えにくいと思うが)、あくまでも話の展開は主人公の身の回りと中心として展開していきます。また、これは個人的に感じた事ですが、中国語で読みたいな、と思いました。確かに日本語でも、十分にその物語の雰囲気は伝わってくるのですが、もし中国語で書かれたものであれば、より鮮明にそのイメージが浮かび上がるかも知れません。ですから、私はこれから台湾で中国語翻訳版が出版されるのを期待して待っています。

 最後に、台湾に関する日本語で得られる情報では、あまり外省人からみた姿というのは、ないと思います。また、日本語での台湾に関する情報に関しては、その多くがどちらかと言うと緑より(台湾独立支持より)の方の内容が多い気がします。若い世代に関しては、本省人、外省人、そして台湾原住民も含めて融和が進んでいると私は感じています。主人公が、本書の中で高雄出身の本省人女性と結婚したのは、そういう省籍対立が少しずつ薄らいでいる現状を表したもの、とも言えるでしょう。その様な意味からしても、本書は小説としての面白さだけではなく、戦後台湾の複雑な姿の一面を照らし出しているとも言えるのではないでしょうか。
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by ken1horie | 2015-09-03 23:21 | | Comments(0)